暗譜ということ
暗譜はすごいか
テレビのクラシック番組はほんとうに少なくなってしまいました。もっとも、昔だってそう多くはありませんでしたが。 早朝のNHK-BSでは毎朝いろいろなジャンルのクラシック音楽をやっていますからちょっと早起きすれば楽しむことはできます。そんな番組を含めて演奏家という皆さんの多くはみな暗譜で演奏をこなしています。深夜の長時間番組でもコンチェルトやソナタなどの場合、ピアノといわずヴァイオリンといわずまず100% 暗譜で弾きます。こういうプロの見事さには舌を巻くほかありません。もちろん、私たちが聴くことのできるコンサートでも合奏などでなければほぼすべて暗譜でしょう。 どうすればこんなことができるのか。「ピアニストの脳を科学する」という本には、演奏家は楽譜を読みこなす過程で写真を撮るように楽譜を映像として頭の中に取り込んでしまう能力を持っていると書いてあります。しかし私のような素人は、演奏家が頭の中にインプットしてもそれをどうすれば決められた順序通りの取り出すことができるのか、とますます不思議に思わざるを得ません。
今私が楽しんでいるコーラスのグループでは、この秋の発表会を前にして歌唱曲を暗譜することで悩まされています。ほんの短い曲なのに、です。で、先日読んだ本の中にこんなことが書いてありました。そもそも暗譜という技術は昔、トスカニーニという指揮者が、自身がド近眼だったために楽譜をなめるようにして見つめ続けた結果すべて頭に入ってしまい、ステージでは楽譜なしで指揮することができた、と。トスカニーニにとっては分厚い楽譜を目の前にしても近眼で見えないのだからあっても意味がない。というわけで、実はやむをえずの暗譜だったのです。しかし世の中の音楽家は「トスカニーニ、恰好いい!」ということになって皆彼を倣(なら)うようになったということだそうです。ダメと思ってもやればできるじゃん、というわけです。ところが私が読んだこの本の著者は「だから目が見えるなら、あえて暗譜などしなくていい」と。この記事を読んで私は一気に気持ちが軽くなりました。
今日はヴァレンティナ・リシツァの優雅な指が奏でるショパンのポロネーズを聴いてください。
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